ACS Navi for ACS Explorers

四国随一の治療実績を支えるのは優秀で前向きなスタッフの協力体制

徳島県小松島市・日本赤十字社 徳島赤十字病院

 徳島県の東部中央に位置し、徳島市の南側に隣接する小松島市。約70年前からこの地の診療を担う徳島赤十字病院は、同県だけにとどまらず四国の医療において極めて重要な役割を果たしています。救急搬送される患者さんを積極的に受け入れており、ドクターカーやドクターヘリによる搬送も少なくありません。急性心筋梗塞(AMI)の受け入れ症例数や心臓カテーテル治療件数は四国1位を誇り、全国でもトップ10に入っています。同院における心臓カテーテル治療に携わる医師、看護師をはじめとするメディカルスタッフのチーム医療への意識は高く、同院の理念である「24時間365日断らない医療」の実践に日夜努力しています。急性冠症候群(ACS)治療に携わる皆さんに、ハートチームの取り組みについてお話をお聞きしました。

お話を伺った方々
當別當洋平先生(循環器内科 副部長)
米田浩平先生(循環器内科 指導医師)
四宮裕美さん(看護師、カテ室担当)
西内聡士さん(臨床工学技士)
大久保真由美さん(病棟薬剤師)
丸岡真弓さん(看護師、病棟担当)
高瀬広詩さん(理学療法士)
栄原純子さん(栄養士)

医師が2チームに分かれ、断らない医療に対応

 2009年に国の指定を受けた同院の高度救命救急センターは、県内唯一の高度救命救急センターです。県南部を中心に、県全域にとどまらず遠くは高知県からも救急患者を受け入れています。2015年4月にドクターカー、2016年6月にはさらにラピッドレスポンスカーによる病院前救急診療を開始しました。ラピッドレスポンスカーは、消防(救急隊)の要請を受けて医師と看護師が現場に急行し、病院前診療を行う際に使用する乗用車型のドクターカーです。こうしたドクターカーの出動件数は年々増え、最近では年間1,000件を超えています。また、ドクターヘリによる搬送も1日平均1~2件、多いときは3~4件に上ります。

 2017年度の救急患者搬送数は4,925件と県内で最多。1日平均15件前後を受け入れています。こうした救急医療で中心的な役割を果たしているのが循環器内科です。

 循環器内科副部長の當別當洋平先生によると「循環器内科医18人が2チームに分かれ、『24時間365日断らない医療』に対応しています。緊急の経皮的冠動脈インターベンション(PCI)などにもすぐに対応できるよう、術者、助手、さらにカテ室外に1人というように、1チーム当たり少なくとも3人の医師がスタンバイしています」。循環器内科指導医師の米田浩平先生は「臨床工学技士、診療放射線技師は常に1人が当直していますし、看護師2人がオンコールで10分以内に来てくれるので、夜間でも遅くとも30分以内にスタッフ全員がそろいます。そのため、当院のDoor to Balloon Time(DTBT)はかなり短い。おそらく県内なら断トツでしょう」と胸を張ります。

 このように同院の心臓カテーテル治療は大きく花開き、2017年の実施件数は1,083件、そのうち3割近くに当たる300件前後をACS症例が占めています。

緊急招集時の連絡方法はシステムが確立されていてスムーズ

 同院のDTBTは「心筋梗塞全体では60分程度となりますが、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)に限ると平均40~50分。夜間でも日中とほとんど変わらず、むしろ夜間の方が短いときもあります」と當別當先生。「PCIの手技は、シンプルなものなら30分かからない。来院から1時間以内に治療が終わって集中治療室(ICU)に入室しています」。

 スタッフの招集は「ファーストタッチした医師が電話交換手に連絡を入れると、そこから全てのスタッフに次々と電話をかけてくれるので非常にスムーズ」と米田先生。連絡を受けたカテ室(アンギオセンター)担当の看護師(13人在籍)はすぐにカテ室の確保に入ります。カテ室担当看護師でインターベンションエキスパートナース(INE)の資格を持つ四宮裕美さんは「まずは予定カテがどこで空くかを調べ、緊急が入ったからと病棟に電話をして、予定患者さんに治療延期をご理解いただきます」。

 「当院のカテ室は4室ありますが、PCIで主に使用しているのは2室。一方のカテ室では慢性完全閉塞(CTO)などの手技に比較的長く時間のかかる症例、他方のカテ室では30分程度で終わる症例のPCIを行うことが多い」と當別當先生は言い、米田先生も「2室とも使用中の場合は、状況により他のカテ室を使用します。カテ室の待ち時間というのはほとんどないと思います」と話します。

 カテ室の待ち時間が出る場合はどうするのでしょうか。「カテ室担当看護師は待ち時間を使って清潔キットをすぐ使えるように用意し、年齢や性別を聞いて必要となりそうなカテーテルなどの物品や薬剤を速やかに準備します」と四宮さん。もちろん臨床工学技士(15人在籍)も血管内超音波法(IVUS)、光干渉断層法(OCT)や補助循環装置などの準備を進め、PCI医がカテ室に入室したらすぐに手技を開始できるよう努めています。

メディカルスタッフの協力と先読みで迅速かつ安全なPCIを施行

 迅速で安全なPCIの施行には、メディカルスタッフの協力が欠かせません。臨床工学技士で心血管インターベンション技師(ITE)の認定を持つ(当院で3名)西内聡士さんは「先生が今どのような情報を欲しているのかを先読みし、例えばOCTで示される血管性状に応じて、適切と思われるステントの種類、末梢保護デバイスの要否などを提案しています。臨床工学技士は画像を見て思ったことをそのまま言うようにしています。提案が間違っていることもあるかもしれませんが、異常を感じたのにそのままやり過ごして、治療が進んでいくということがないように気を付けています」。また高度石灰化病変には、先端にダイヤモンドをちりばめた高速回転ドリルで冠動脈の狭窄病変を削る高速回転式アテレクトミーを行っていますが、「進捗が分かるように回転数の変化を逐次、先生に伝えたり、ポリグラフで不整脈や血圧低下が起こっていないかチェックするなどし、医師や看護師と常に情報を共有しています」。

 四宮さんも「先読み」の大切さを強調します。「PCIの準備で、この患者さんに使いそうだと思われる物品を先生がすぐ手に取れる位置に置くようにします」。また「PCIの患者さんは痛みや不安が強いといった理由で不用意に動いてしまうなど、予期せぬ合併症が起こりえます。先読みしながら他のスタッフと協力しつつ、合併症の発生を防ぐようにしています」。

『心血管カテーテル検査・治療に伴う合併症マニュアル』で合併症に対応

 「合併症については、『心血管カテーテル検査・治療に伴う合併症マニュアル』をカテ室に用意し、心カテ検査や治療で起こりうる合併症に対して経験が浅いスタッフでも慌てることなく対応できるようにしています」と四宮さん。マニュアルには「ワゴトニー(血管迷走神経反射)」「アレルギー」「不整脈(心室頻拍・心室細動・高度徐脈・房室ブロック)」「急性冠動脈閉塞(心筋梗塞・スパズム)・ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)」「冠動脈穿孔・心タンポナーデ」「出血性合併症(穿刺部の血腫・仮性動脈瘤・動静脈シャント)」「塞栓症(脳血管障害・肺塞栓症・末梢動脈閉塞・コレステリン塞栓)」について症状や原因、対応が簡潔にまとめてあり、「緊急手術時手順」なども含まれています。

 糖尿病合併例のPCIに関して、糖尿病治療薬の服用状況に注意していると語るのは、病棟薬剤師の大久保真由美さんです。「ヨード系造影剤を使用する際、ビグアナイド系薬は造影剤腎症のリスクになるため、造影剤使用の前後48時間は服用を中止することになっています。服用している患者さんが見受けられないかの確認を行い、その情報を医師とタイムリーに共有できるようにしています」。さらに、予定PCIの場合に「PCI前の抗血小板薬2剤服用ができているかの確認を徹底しています」。

AMI入院患者さんには活動を制限する形でリハビリを行う

 患者さんの予後改善には、PCI後の対応も重要であることは言うまでもありません。循環器病棟担当の看護師である丸岡真弓さんは「病棟担当看護師とカテ室担当看護師の間では、PHSを活用して密に連絡を取り合い、安全で確実なケアの提供を心がけています。特に循環器疾患の患者さんはきっちりした性格の人が多く、入院中の予定をしっかり伝えるようにしています」。さらに「退院が近づいたら、退院後の生活について特に重要な項目に絞って、イラストを入れるなどしたパンフレットを用いて説明し、退院後も繰り返し読んでもらうこと、体重・血圧測定を継続してもらうことをお願いしています」。

 入院中の心臓リハビリテーションを担当する理学療法士の高瀬広詩さんは「当院では平日だけでなく、土日にもリハビリを行います。AMIで入院した患者さんに対しては、日本循環器学会のガイドラインにのっとった専用パスを用いてリハビリをしています。もともと動けている患者さんが多いのですが、心破裂、不整脈などの合併症の危険性があるので、基本的には活動を制限する形で進めます。症状などを見ながら、徐々に安静度を緩めていきます」と話します。また「ベッドから起き上がるときには、いきなりではなく、横を向いてゆっくり起きる。排便時に息まない。そういった細かな注意もお話ししています」。

二次予防の観点からLDL-C 70mg/dL未満の重要性を啓発

 PCIを受けた患者さんの多くが社会復帰を果たしていますが、残念ながら再発してしまう人も少なくありません。どうしたら二次予防を実現できるのでしょうか。

 脂質管理について、當別當先生は「最近は特にACSやハイリスク病態を合併する糖尿病患者さんの冠動脈疾患二次予防策として、LDLコレステロール(LDL-C)を70mg/dL未満に下げる重要性が高まっています1)。再発を繰り返している人は二次予防の大切さを分かっていますが、初発の人にはなかなか分かってもらえません。しかし、初発だからこそ再発は防ぎたい。そうした観点から、当院ではガイドラインに則して70mg/dL未満に下げるよう指導しています」。

 米田先生は退院した患者さんが地域の診療所などに通院する場合に「医師がLDL-C 100mg/dL程度でよいのではないかと考えて、退院時に処方した薬剤を減らしている場合があります」と言い、「家族性高コレステロール血症(FH)でなくても、若くて再発を繰り返しているようなACSまたはハイリスク病態を合併する糖尿病患者さんはLDL-Cをきちんと下げた方がよいと考えています。フォローアップ診察のときに、その重要性を強くお話しするようにしています」。

約束事は必ず患者さん本人に口に出して言ってもらう

 退院時の患者指導も二次予防にとって重要です。服薬アドヒアランスの徹底について、大久保さんは「朝食はきちんと取る人が多いので、1日1回服用の薬剤は朝食後の服用であれば忘れることは少ないようです。例えば、寝る前に薬を食卓にあらかじめ用意しておくなどと指導しています」と話します。また、副作用により服薬を中止してしまう患者さんがないよう、副作用の説明に時間を費やします。「例えば、飲み始めに頭痛が出ることがある薬は、頭痛が出るとやめてしまう患者さんがいます。体が慣れてくれば頭痛はおさまりますと最初に説明しておくことで、服用中止を防ぐことができます。ただ、どうしても服用できない場合は、医師に必ず相談してくださいとも付け加えます。副作用については、出現する症状などを具体的に挙げて説明するよう心がけています」。

 退院後の食事の取り方について、管理栄養士の栄原純子さんは「塩分は1日6gまでと言われても、なかなか実践できない人が多いのが現状です。これまでかなり塩分を取っていた人なら、少なくとも以前よりは減らす方向に持っていくよう指導することが現実的と考えています。また、漬物を減らす、麺類のスープは残すなどの約束事は、必ず患者さん本人に口に出して言ってもらうようにしています。聞いただけではすぐ忘れてしまいますが、口に出して言うことで記憶に刻まれるのです」。

家族にも同様に説明し、リハビリへの理解を得る

 徳島県は糖尿病による死亡率が全国でワースト1位2)。以前同院で行った調査では、ACS患者さんの約6割が糖尿病を合併していました。同県においてより重要となる糖尿病合併例の食事に関して、栄原さんは「ご飯と麺類を一緒に食べないなどはもちろん大事ですが、主食は抜かない方がよいと考えています。減塩目的の味の薄いおかずばかりを食べることになり、減塩を長く続けることが難しくなってしまうからです」とアドバイスします。

 高瀬さんは「理学療法士はリハビリを通して入院中の患者さんと接する時間が長く、指導する機会に恵まれています。運動機能に限らず、患者さんの全体の状況を捉えて状況に応じた指導をしていきたいと考えています」と言い、「再発予防のためにも運動の重要性を説明しますが、その際、患者さんだけでなく家族にも同じように説明するようにしています。そうしないと、帰宅後のリハビリを家族が止めてしまうことがあるからです」と話します。

二次予防のためには患者さんへの啓発に加え、開業医の理解が鍵

 最後に、お話をお聞きした皆さんに、今後取り組みたいことを伺いました。

 當別當先生は「優秀なスタッフが皆、早め早めに動いてくれるので、僕らは安心して手技に集中できます。正直、患者さんが来院してからの対応はもうこれ以上早くならないと思えるくらい、以前からしっかりやってきました。これからは、発症から病院到着までの時間をどうにか短くしたい」と訴えます。「ドクターヘリなどによって搬送体制は改善されてきたので、胸痛を感じたときに我慢せず救急車を呼ぶという啓発活動が重要だと考えています。中には『この患者さんはSTEMI発症から既に半日ほど経過していて、PCIをしてもダメージが残りそうだ』と感じることがあります。そういうことがないよう、市民公開講座などでさらに啓発していく必要があると思っています」。米田先生は「開業医の先生方、特に循環器が専門ではない先生方に、二次予防の重要性を理解してもらうことが大切と考えています」。

 四宮さんは「カテ室担当の看護師は覚えることが非常に多く大変ですが、魅力ある職場になるように新人教育をしっかりとやっていきたいと思っています。カテ室に配属された看護師には、OJT(on-the-job training)の年間教育計画に沿って経験項目を1年間で修了できるようにしています。エルダーナースを決め、相談できるシステムも用意しています」。

 丸岡さんは「循環器病棟の看護師の中には、心臓リハビリテーション指導士や慢性心不全看護認定看護師の資格を持つ人がいて活躍しています。若い看護師がこうした資格の取得にチャレンジして、患者さんにもっと還元できるようになればと考えています」。さらに、2013年8月に導入されたパートナーシップナーシングシステム(PNS)については「PNS導入後、悩みがあっても1人で抱え込むことが少なくなったように思います。若い看護師にタイムリーな指導ができるようになりました。今後もより充実していきたいですね」と高く評価しました。

 最近、補助循環用ポンプカテーテル実施施設へ医師、看護師、臨床工学技士が施設見学に行ったと話す西内さんは「残念ながら今回の見学に私は参加していませんが当院でも導入が予想されますので、こうした新しい技術や知識は院内外のセミナーや学会に参加することで習得に努め、臨床工学技士としての専門性をさらに高めていきたいと思っています」。

 高瀬さんは「患者さんとの会話の中から生活上のさまざまな問題点に気付くことがあります。患者さんから得られた多くの情報を他のスタッフとうまく共有していくことが大事だと考えており、より徹底していきたいです」。

 大久保さんは「最近は電子版のお薬手帳で処方履歴などをスマホ管理している患者さんが多くなりました。当院でもこれに対応できるよう検討を進めたいですね」。

 栄原さんは「入院は人生の通過点にすぎないのかもしれませんが、入院がそれまでの生活を見直すよいきっかけになる可能性があります。そのためにも、個々の患者さんの生活状況をよく把握した上で的確な栄養指導をしていきたいと考えています」。

 このようにハートチームは優秀で前向きなスタッフが協力し合うことで成り立っています。同院が高い治療実績を挙げることができているのは、治療に携わる各職種によるチーム力の結晶だといえそうです。

1) 日本動脈硬化学会:動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版

2) 平成29年(2017)人口動態統計月報年計(概数)の概況第10表 主な死因の死亡数・死亡率(人口10万対)、都道府県(21大都市再掲)別

日本赤十字社 徳島赤十字病院
〒773-8502 徳島県小松島市小松島町字井利ノ口103番
TEL:0885-32-2555(代表)
URL:http://www.tokushima-med.jrc.or.jp/

 

EVO214157MH1(2021年6月作成)