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ACS患者の救命と二次予防に尽力する東毛地区唯一の三次救急医療機関

ACS患者の救命と二次予防に尽力する東毛地区唯一の三次救急医療機関

群馬県太田市・SUBARU健康保険組合太田記念病院

取材日:2020年8月20日(木)

 群馬県南東部(東毛地区)に位置し人口約22万人を擁する太田市。自動車メーカーとして知られているSUBARU(旧富士重工業)の企業城下町で、北関東随一の工業地域といわれています。同市には公立病院がなく、古くから地域住民の健康を守ってきたのが現在のSUBARU健康保険組合太田記念病院です。東毛地区唯一の三次救急医療機関で、重症患者を救命する最後の砦としての役割も果たしています。同院で急性冠症候群(ACS)の診療に当たっているスタッフの皆さんに、ACSの患者さんの救命と二次予防に向けたハートチームの取り組みを伺いました。

群馬県太田市・SUBARU健康保険組合太田記念病院
お話を伺った方々
安齋均先生(副院長兼心臓血管センター長兼患者支援センター長兼血液浄化センター長)
根本尚彦先生(循環器内科主任部長)
周東久美子さん(看護師長、ER担当)
椎名盛一さん(臨床工学技士、臨床工学部課長)
林嘉仁さん(臨床工学技士、臨床工学部)
深沢正宏さん(診療放射線技師、画像診断部)
島崎妙子さん(看護師、ICU/CCU担当)
中島俊幸さん(看護師長、循環器病棟担当)
櫻井美里さん(理学療法士、リハビリテーション部)
石川順子さん(看護師長、外来担当)

心臓血管病は「当院で治療を完結する」という強い思いで臨む

安齋均先生

 1938年開設と歴史が古く、2012年に現在地に新築・移転し、現在の名称に変わった同院。診療科目30科、総病床数404床(感染症病床4床を含む)で、地域医療支援病院、第二種感染症指定医療機関などに指定されています。

 「群馬県に4つある三次救急医療機関の1つで、隣接する市町村や栃木県、埼玉県からも重篤な救急患者を24時間365日受け入れています。新病院開設と同時にスタートした心臓血管センターでは、循環器内科、心臓血管外科が一体となって各種心臓血管病に対してより良い治療の提供を心がけています。心臓血管病に関しては、当院で治療を完結するという強い思いで臨んでいます」。そう語るのは、副院長の安齋均先生です。

 「当科で行っている経皮的冠動脈インターベンション(PCI)は年間およそ450~500件、このうち150~200件がACSに対するPCIです。他施設と同様、ACSの比重が最近増しています」と安齋先生。循環器内科の常勤医は7人で、全員がPCIを行っています。「ACSに対するPCIの効果は揺るぎないことが証明されていますから、それを患者さんにきちんと24時間365日遅滞なく提供できる体制で取り組んでいます」。

 心臓血管病に対しても24時間365日、迅速に対応できている背景について、循環器内科主任部長の根本尚彦先生は「カテーテル室などのハード面と、救急外来(ER)を含めたさまざまなスタッフの努力や協力などのソフト面、その両方が充実しているおかげです」と話します。「例えば、ACSの患者さんが救急搬送された場合、受け入れたERの看護師がそのまま3階のカテーテル室に上がってPCIに臨みます。カテーテル室内での各スタッフ間の連携も非常にうまくいっています。さらに、心臓血管外科のバックアップがあるから、安心してカテーテル治療を行えることも忘れてはならないでしょう」。

約30人のER看護師は全員、心臓カテーテル治療に対応可能

根本尚彦先生

 ERの看護師によるカテーテル室対応について、ER担当看護師長の周東久美子さんは「当院の心臓カテーテル治療には、ERの看護師が24時間対応しています。現在ERには約30人の看護師がいますが、全員PCIを含む心臓カテーテル治療に対応可能です」と説明します。心臓カテーテル治療に対応できるようになるには当然、専門的な知識の修得が不可欠です。その教育に当たっては、前任地の病院で作成した心臓カテーテル室看護師向けのマニュアルを、同院のシステムに合わせて修正し使用しているそうです。

 ERの看護師が心臓カテーテル治療に対応することで、どのようなメリットがあるのでしょうか。「ERで患者さんの状態を把握した看護師がそのまま心臓カテーテル室に入るため、申し送りの必要がなく、心臓カテーテル室での対応も速やかになります」と周東さん。さらに「病院到着前の救急隊からの情報で、ER医師が心臓カテーテル室に直接搬送した方がよいと判断した場合は、カテーテル室に直接入室することになりますが、その場合はERの看護師が心臓カテーテル室で待ち受ける形になり、Door to Balloon time(DTBT)をより短くすることができます」。根本先生によると、心肺機能停止で心臓カテーテル室に直接入室した患者さんの対応について、ERの看護師などのスタッフがシミュレーションを繰り返した結果、救急車到着から心肺装置駆動までの時間を10分台に短縮できるようになったそうです。

胸痛患者救急看護記録で速やかに現状を把握

周東久美子さん

 周東さんに、DTBT短縮に向けた取り組みをさらに伺うと、「胸痛患者救急看護記録()が役立っていると考えられます」と教えてくれました。「救急の患者さんの看護記録とは別に作成した、胸痛を訴えて来院した患者さん専用の看護記録です。発症後の経過、胸痛の程度、既往歴、内服薬に加え、カテーテル室入室前に行った検査やケア、カテーテル治療における処置や患者さんの状態を素早くチェックあるいは記入できるようになっています。これを見れば誰でも何が行われ、何が行われていないかがすぐ分かります。ERでは、他部署の看護師が月に1~2回の頻度で夜勤を担当することがあり、そうした看護師にも速やかに現状を把握してもらえます」。

図. 胸痛患者救急看護記録

胸痛患者救急看護記録

(提供:SUBARU健康保険組合太田記念病院)

 一方、「DTBTの短縮に努める中で、反省すべき点もあります」と周東さんは打ち明けます。「時間の短縮を追求するあまり、患者さんの気持ちを置き去りにしているのではないかという点です。実際、患者さんに『ちょっと待ってくれ。何がなんだか分からない』と叱られたことがあります。処置を進める看護師の他に、今どのような状態で、何をしようとしているのかなどを、患者さんに丁寧に説明するスタッフも必要なのではないかと考えています」。緊迫した救急医療の現場で、看護師ならではの視点で患者さんに寄り添っています。

治療開始30分前の多職種カンファレンスで検査・治療の流れなどを確認

椎名盛一さん

 同院の心臓カテーテル室は2室。通常、PCI施行時は1室に医師2人、看護師2人、臨床工学技士1人、診療放射線技師1人が入室します。

 心臓カテーテル室における臨床工学技士の業務について、臨床工学部課長の椎名盛一さんは次のように説明します。「臨床工学技士は15人在籍しています。夜間は常に1人が当直で、原則としてカテーテル室は1室だけ使用しますが、緊急の患者さんが重なった場合はオンコールの臨床工学技士が応援に入ります。治療開始30分前に多職種カンファレンスを行って、患者さんの情報を共有し、検査・治療の流れ、注意点、必要物品を確認しています」。

林嘉仁さん

 同じく臨床工学技士の林嘉仁さんは、術前の患者情報の把握について「特に、直近の12誘導心電図とカテーテル検査・治療歴の情報収集を重視しています。ステント留置歴がある場合は、長さや大きさを術前に把握するように心がけています」。DTBT短縮に向けた取り組みとしては「緊急治療に限らず、基本セットの展開、ワイヤーなどへの水通し、シース・検査用ガイディングカテーテルの水通しなどの準備を診療放射線技師と臨床工学技士が協力して行っています。さらに、臨床工学技士、診療放射線技師が準備を進めている間に、ER診療に当たらない方の先生がヘパリン加生理食塩水を作成し、スピードアップを図っています」と言います。

 なお、同院は2019年に補助循環用ポンプカテーテル実施施設の認定を取得しました。林さんは、補助循環用ポンプカテーテルについて「既に治療補助として臨床使用を始めていますが、新しい補助循環装置であり、新しい治療であるため、臨床工学部で毎月1回導入訓練を行っています」と、意欲的に取り組む姿勢を示します。

深沢正宏さん

 26人在籍している診療放射線技師の1人で、主にインターベンショナルラジオロジー(IVR)を担当する画像診断部の深沢正宏さんは、心臓カテーテル室の業務では次のようなことに注意を払っていると話します。「IVRを始めるに当たっては、まず患者さんのポジショニングを重視しています。検査を進めていくうちに体が傾いてきたり、腕が落ちたりすることがあり、血管撮影装置のアームに触れてしまう可能性もあるからです。患者さんに声をかけながら微調整しています」。

 撮影条件としては「パルスモードを採用した透視で、拍動の影響をなるべく受けず、かつ放射線量を減らせる7.5pulse/秒に設定しています」。医師への画像提供に際しては「心臓カテーテル検査は、多方向から撮影を行います。患者さんごとに心臓の形や冠動脈の走行は異なりますので、PCIではできる限り病変が長く写る位置、かつ側枝との関係性が分かる位置を意識してワーキングアングルを提供しています」と深沢さん。的確な画像提供を考慮しつつ、患者さんだけでなく、スタッフの安全面についても配慮しながら業務に当たっています。

心臓カテーテル室、ICU/CCU、循環器病棟、手術室が隣接

島崎妙子さん

 同院の心臓カテーテル室は病院棟の3階にありますが、このフロアには心臓カテーテル室に加え、ICU/CCU(12床)、循環器病棟(44床)、ハイブリッド手術室を含む手術室が隣り合わせに配置されています。ICU/CCU担当看護師(全43人)の島崎妙子さんは、その利点をこのように評価します。「扉1つ隔てた隣室が心臓カテーテル室なので、アラームが聞こえたりして、進行状況が予想しやすいです。心臓カテーテル室を出たら、すぐにICU/CCUとしてのケアができるというメリットもあります」。

 循環器病棟を担当する看護師(全33人)の中島俊幸さんは、「隣接しているので、スタッフ間での情報共有が図りやすい点がメリットです。また、入院中の患者さんをスムーズに心臓カテーテル室に案内できることや、病棟で具合が悪くなった患者さんをICU/CCUに移動しやすいという利点もあります。病棟以外のスタッフともチームとして協力しながら患者さんの救命に当たれるという強みもあります」と説明します。

 さらに、患者さんやご家族と話をする機会が多いという中島さんは「これまで心臓についてなんの心配もなく過ごしてきた患者さんが多く、『なぜこんな病気になってしまったのだろう』という思いが多いことから、まずはその思いを傾聴しながら、日常生活で注意してもらいたい点やリスクファクターで改善すべき点についてお話ししています」。

 島崎さんも「最近は独居や家族がいても協力してもらえないケースがあるなど、患者さんの社会的背景は一様ではありません。そうした情報をソーシャルワーカーと早めに共有し、退院に向けてスムーズに進められるよう気を付けています」と話します。

二次予防策として心臓リハビリテーションを積極的に勧める

中島俊幸さん

 同院では、急性期治療とともに二次予防にも積極的に取り組んでいます。そのアプローチについて、安齋先生は次のように説明します。「PCIを受けた患者さんに対して、入院中のリハビリテーションから理学療法士や循環器病棟の看護師が積極的に介入し、外来での心臓リハビリテーションにつなげるようにしています。退院後は、定期的に院内で開催するコレステロール・心臓病講座を受講してもらいながら、必要に応じて積極的な脂質管理を行い、二次予防に取り組んでいます」。

 理学療法士は15人在籍しており、うち4人が心臓リハビリテーションを担当しています。その1人でリハビリテーション部の櫻井美里さんは、急性心筋梗塞(AMI)の患者さんの心臓リハビリテーションの概要を次のように説明します。「AMIのクリニカルパスに従って、PCI施行翌日からヘッドアップ、坐位、立位、歩行というように、段階的に負荷を高めていきます。合併症がなければ1週間ほどで退院になりますので、退院までほぼ毎日行います」。

 中島さんは「身体機能的には動けても、心臓が悪いため動けないという場合もあるということを理解してもらえるように患者さんに説明しています。心臓リハビリテーションでは、運動中の心電図モニタリングなどを行いながら、理学療法士とともに患者さんのさまざまな悩みや相談ごとに耳を傾けています。内容によっては薬剤師、栄養士にも協力してもらっています」と話します。

櫻井美里さん

 一方、退院後の心臓リハビリテーションについて、櫻井さんは「生活習慣病のリスクファクターがある患者さんを中心にお勧めしていますが、年齢や通院手段の問題で参加できない患者さんは少なくありません。当院のPCI施行件数は年間450~500件ですが、外来の心臓リハビリテーション参加者は年間50人を超えない程度だと思われます」と説明します。「外来の心臓リハビリテーションは少なくとも週1回実施し、5カ月間続けてもらうことを目指します。心臓リハビリテーションの負荷量は、患者さんからお聞きした病前の活動量や年齢、運動機能を踏まえて調整するようにしています」。

 外来担当の看護師長を務める石川順子さんは、管理業務を担当する傍ら、外来で心臓リハビリテーションを行う患者さんの対応にも当たっています。「外来の心臓リハビリテーションでは、患者さんの状態、運動中の心電図所見や症状などの情報を多職種間で共有しながら、受診間隔や内服薬の調整を図るようにしています。患者さんには、毎日、食事の内容や血圧、体重などを『ハートファイル』に記録してもらっています。例えば、ハートファイルに記入された食事内容について栄養士が定期的にフィードバックしていますが、そうした取り組みが患者さんのモチベーション向上につながっていると考えています。特に重要なのは、心臓リハビリテーションの効果を患者さんと共有することです。心臓リハビリテーションを続けてくれている患者さんに対し、労いの気持ちで接することが大事だと考えています」。

コレステロール・心臓病講座でLDL-C低下治療への理解を促す

 同院ではPCI施行の患者さん向けクリニカルパスの中にアキレス腱肥厚の測定を組み込み、家族性高コレステロール血症(FH)の見落としがないように努めており、ACSの患者さんほぼ全例に対しX線撮影法でアキレス腱肥厚を評価しています。検者によるばらつきを最小限に抑えるため「アキレス腱が十分伸びて、下腿と足底部が垂直になり、かつアキレス腱がプレートに対して平行になるような状態で実施しています」と、深沢さんは撮影のポイントを説明します。

 安齋先生と薬剤師、看護師が講師を務めるコレステロール・心臓病講座は、1回1時間、月1回のペースで開催しています。「二次予防をどのように行うべきかについて、入院中や外来では個別に説明する時間が持てないため、この講座で説明するようにしています。ACSの患者さんであればLDLコレステロール(LDL-C)を70mg/dL未満まで下げる必要があることを理解してもらえるよう努めています」と安齋先生。「最大用量のスタチンでも70mg/dL未満に達しないACSの患者さんやFHと診断された患者さんには、注射薬を含めた積極的な薬物療法に関しても説明しています」。

 講座終了後に注射薬の手技指導を行っている石川さんは、患者さんに服薬を継続してもらうためのポイントとして「患者さんは症状が落ち着くと大変な病気だったということを忘れ、楽観視してしまいます。患者さんの考えを受容した上で、再発させないためにはLDL-Cを下げる必要があることをどの程度理解しているか確認し、理解してもらえるまで関わっていくことが重要です」と言います。

 根本先生は「入院中から家族を含めて、どのように二次予防を図るべきかを十分話し合う必要があります。LDL-Cに関しては、健康診断の正常値とあなたが目指す目標値は違うという点を分かってもらわなければなりません。そこでは特に循環器病棟の看護師、理学療法士、薬剤師が、退院後は外来の看護師も大事な役割を果たしています。リハビリや薬物療法も含め、スタッフ全員が協力していくことによって、1人の患者さんに対するトータルケアが可能になり、それが二次予防へとつながるのです」と強調します。

 このように、二次予防に関してもさまざまな診療科や多職種の協力があってこそ成り立っているのです。

職種に関係なく、言いたいことが言える病院にしたい

石川順子さん

 最後に、ACS治療において大事にしていることや今後力を入れていきたいこと、ハートチームへの思いなどを皆さんにお聞きしました。

 石川さんは「外来を1人で受診されるAMIの患者さんへの対応をしっかりと行いたいと考えています。処置に邁進するだけでなく、患者さんを置き去りにしないよう注意していきたいです」。同じく「患者さんを置き去りにしないことが何よりも大事です」と言う周東さんは「ERからカテーテル室に上がるエレベーターホールで、ご家族が患者さんに声をかける時間を一瞬でもいいから設けたいと考えています。それによってご家族は患者さんの現在の容態を感覚的にも知ることができますし、患者さんの不安も少し和らぐのではないかと思うのです。その上で、先生方に求められているDTBTのさらなる短縮に努めていきたいです」。

 島崎さんは「患者さんの社会的背景を含めた看護ができるスタッフを育てていきたいと考えています」。中島さんは「ACSは患者さんの回復が分かりやすく、それを最も目にしやすいのが病棟看護師です。患者さんが元気に帰っていく姿を見ることができて嬉しいですし、モチベーションが上がります」。

 櫻井さんは「外来の心臓リハビリテーションを終えた患者さんが、その後どのように過ごしているか、体の状態はどうなのかを確認したいと考えており、その方法を検討しているところです」。深沢さんは「診療放射線技師としてスタッフの安全面にも配慮しており、放射線被曝に関する情報発信を行っています。個人の被曝管理だけでなく、カテーテル室のどの場所で放射線が出ているか、被曝の程度はどれくらいかを、全スタッフが意識できるように工夫しています」。

 椎名さんは「臨床業務を行う上で臨床工学技士は高いレベルの知識が必要とされます。臨床工学技士に求められるさまざまな業務を遂行するには、スペシャリストでありジェネラリストでなければならないと考えています」。林さんは「当院は医師をはじめ多職種が一緒に治療を行う環境が整っています。そのため、多職種から評価してもらえることがモチベーション維持に役立っています」。

 根本先生は「東毛地区唯一の三次救急施設である当院は、心原性ショックを呈する患者さんを救命するという大事な役割を担っています。その役割を果たすためには多職種連携が重要ですし、職種に関係なく言いたいことが言える病院にしたい、そうした雰囲気をつくりたいと考えています」。

 締めくくりとして、安齋先生は「ACSに対する再灌流療法に関しては、今後も質を落とさずに提供し続けたいと思っています。その上で、二次予防への取り組みとして、救命できた患者さんが長期経過の中で低左心機能を来たすケースが増えているので、そういうACS後の慢性心不全に対しデバイス治療をきちんと提供できるようにしていきたいと考えています」と述べ、二次予防策のさらなる充実を目指す姿勢を示されました。

 同院のハートチームスタッフの熱い思いがACSの患者さんの救命につながっています。

コラム COVID-19への対応

 2020年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大を受け、医療のあらゆる場面が混乱し、その対応に苦慮してきました。SUBARU健康保険組合太田記念病院では、どのように対応したのでしょうか。

 根本先生は、地域住民の循環器医療が中断されることがないよう、早い段階から対応策の検討に入ったといいます。「3月中の感染者数の増え方を見ていて、病院全体の対策とは別に独自の対策を速やかに構築すべきだと考え、循環器内科で話し合いを重ねて病院の了解を得た上で、4月1日に循環器内科としてのCOVID-19対応策を打ち出しました。まず、循環器内科のスタッフは、COVID-19が疑われる患者さんにも必要に応じた診療をきちんと行うという覚悟を決めました。そして、カンファレンスや回診では3密を回避するための具体的な対策を徹底しました」。

 PCI治療に際しても、さまざまな感染防護策を取ったと話す根本先生は「日本心血管インターベンション治療学会(CVIT)のガイドラインにもあるように、カテーテル室に入るスタッフはそれぞれ防護服やN95マスクなどを使用します。カテーテル室内のスタッフ数はできる限り少なくしました」。深沢さんは「例えば、私たち診療放射線技師はカテーテル室に入らず、造影剤注入なども含め全ての作業を室外から行います。また、AMIの患者さんであれば、AMI治療に必要ない物品はあらかじめカテーテル室の外に出しておきます」と話します。訓練を繰り返した結果、救急隊からCOVID-19疑いの連絡を受けてから10分程度でカテーテル室の準備が整えられるようになりました。2室あるカテーテル室のうち、一方にCOVID-19疑いの患者さんが入室した場合、他方のカテーテル室は原則使用しない方針としました。

 また、PCI治療中は「骨組みのようなものの上に透明ビニールをかけて患者さんの顔面を覆い、エアロゾルが飛び散らないように工夫しています。カテーテル室内ではHEPAフィルターを使った換気が1時間に6回行われています。治療終了後は、患者さんの退出から1時間は空気清浄機をかけたままにし、その後スタッフ全員でアルコール消毒・清掃を行っています」と根本先生。

 循環器救急領域で特に感染リスクが高い処置は、エアロゾルが発生する可能性の高い気管内挿管です。根本先生は「東海大学方式を導入しました。ER室で鎮静をかけた患者さんの顔面周囲を透明のビニール袋またはプラスチック製の覆いで囲います。袋や覆いに開けた穴から医師が両手を入れ、喉頭をモニター画面で確認しながら挿管できる機器を使用して気管内挿管を行うようにしました」と説明します。

 「通常、1人の患者さんに臨床工学技士が1人付くのですが、COVID-19対応として、カテーテル室内で体外式膜型人工肺(ECMO)や大動脈バルーンパンピング(IABP)を操作したりする者と室外でポリグラフを操作する者をそれぞれ1人ずつ配置することにしました」と椎名さん。林さんは「カテーテル室に入るスタッフは臨床工学技士を含め個人防護具(Personal Protective Equipment;PPE)の完全装備で非常に暑く、ゴーグルも曇ってしまいます」と打ち明けます。

 一方、看護師はどのように対応したのでしょうか。周東さんは「搬送されてきた患者さんに対してはER室でまず抗原・抗体検査を行い、結果が出るまでPPE完全装備で治療を進めます。20分ほどで結果が分かりますので、陰性と判明した段階でマスクなどは外すようにしています」と語ります。「ICU/CCU内に陰圧室が1室あり、新型コロナウィルス陽性や偽陽性の患者さんを受け入れています。陽性や偽陽性でECMOを使用する患者さんには通常の倍程度の人員が必要となるため、シフト入れ替えなどの人員配置に苦労しました」と話すのは島崎さん。中島さんは「面会はご家族1人のみ15分に制限し、入室する際は病棟看護師が案内する形にしました。そのため、退院後についての相談がなかなかできないなど、ご家族との関わりに支障を来しました」と振り返ります。石川さんは「外来は外部と最も接する場所ですから、新型コロナウィルスには感染させないし、自分たちも感染しないという意識をスタッフ全員に徹底しました」と述べます。

 約2カ月間、外来の心臓リハビリテーションを休止したと話す櫻井さんは「休止期間中は、自宅でできる運動などを継続してもらうよう指導しました。患者さんに電話をかけてご自宅での様子を確認したこともあります。現在は外来での心臓リハビリテーションを再開し、換気や消毒を徹底した上でエルゴメーターなどの配置を見直し、患者さん同士が近づき過ぎないよう配慮して行っています」。

SUBARU健康保険組合太田記念病院
〒373-8585 群馬県太田市大島町455番1
TEL:0276-55-2200(代表)
URL: http://www.ota-hosp.or.jp

 

EVO214155MH1(2021年6月作成)