「迅速、確実、安全」の理念が古都のハイレベル医療を保つ
「迅速、確実、安全」の理念が古都のハイレベル医療を保つ
京都府宇治市・医療法人徳洲会 宇治徳洲会病院
平等院をはじめとする世界文化遺産や緑茶の産地として知られる京都府宇治市。京都市の南側に隣接し、人口は府内で第2位の約19万人を数えます。宇治徳洲会病院は、この地で開院以来40年にわたり、24時間体制の救急医療を提供してきました。府内だけでなく近畿各府県からも、年間9,000件近い救急搬送を受け入れています。その中で中心的な役割を果たしているのが、心臓センターです。心臓血管内科、心臓血管外科とメディカルスタッフが密接に連携したハートチームが24時間365日常駐することで、迅速かつ的確な診療を実現しています。同センターの取り組みについて、そのハイレベルな医療に貢献しているスタッフの皆さんにお聞きしました。
お話を伺った方々 |
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松岡俊三先生(宇治徳洲会病院副院長、心臓センター長) |
小林豊先生(心臓血管外科部長) |
舛田一哲先生(心臓血管内科部長) |
中島貫太先生(心臓血管内科医長) |
太田雅文さん(臨床工学救急管理室技士長) |
「迅速、確実、安全」と「自分の肉親を治療する時どうするか」を理念に
宇治徳洲会病院は1979年12月に、病床数250床、循環器科など9科を診療科目として開院しました。約35年を経た2015年5月には、宇治市の支援を得て、地上10階建て(地下1階)、病床数(急性期)473床(うち救命救急センター28床)の現病院に建て替えられました。
心臓センターは2002年10月、循環器科の医師全員が交代で当直に当たるシステムが出来上がったのを機に、現院長の末吉敦先生によって開設されました。その後、2015年に現病院の新築をもって院長となった末吉先生に代わり、センター開設当初から心臓血管内科医として多くの経験を重ねてきた松岡俊三先生がセンター長に就任しました。
同センターの理念は、「はやい(迅速)、うまい(確実)、やすい(安全)」と「自分の肉親を治療する時どうするか」。末吉先生がセンター開設時に掲げたもので、現在まで受け継がれています。「大学病院や公立病院のような"看板"がない当院が、地域の皆さんに分かりやすい理念を示したいと考えて打ち出したものです」と松岡先生。「自分の肉親を治療する時どうするか」は「どんなモットーよりも切実だと思っています」と話します。
これらが決して形だけの理念でないことは、同センターの実績が如実に物語っています。松岡先生によると、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の施行件数は2017年が952件(待機的770件、緊急182件)と、近畿地方ではトップでした。2018年も861件を数えました。
PCIの初期成功率99.1%、慢性完全閉塞(CTO)の成功率89.1%、待機的症例における合併症発生率0.78%、待機的症例における院内死亡率0.13%、再狭窄発生率7.04%(いずれも2017年)。さらに、2018年のDoor to Balloon Time(DTBT)は救急車来院STEMI(ST上昇型心筋梗塞)で平均50.8分、90分以内達成率は92.3%と、非常に優れたデータが並びます。
まさに「はやい、うまい、やすい」を有言実行している、近畿トップクラスのハートチームと言えそうです。
どのメンバーでチームを組んでも同じ質を保持
「はやい、うまい、やすい」治療を可能にしているのは、このハートチームが24時間365日常駐しているからに他なりません。ハートチームに所属する心臓血管内科の医師は8人、心臓血管外科の医師は4人。麻酔科医や看護師、臨床工学技士、診療放射線技師などのメディカルスタッフも含めると、ハートチーム全体で30人近くの大所帯になります。ここからその都度チームが組まれますが、松岡先生は「大事なのは、どのメンバーでチームを組んでも質が一緒であるということ。そして、その状態をずっと継続することです」と、均質性と継続性の大切さを強調します。
夜間も、心臓血管内科、心臓血管外科の専門医がそれぞれ1人ずつ常駐しています。さらに、ハートチーム所属の臨床工学技士、診療放射線技師、生理検査を行う臨床検査技師、看護師がそれぞれ少なくとも1人当直しています。
24時間365日対応をうたう施設は少なくありませんが、心臓専門医を含むハートチームのスタッフが常駐している医療機関は必ずしも多くありません。「常駐でない施設だと、例えば緊急カテーテル検査が必要になった場合、医師がいたとしてもスタッフを自宅から呼び出す必要があり、それまで検査ができないという状況に陥ります。しかし、当院では患者さんが搬入されてから10分後にはカテーテル検査が始まっています」(松岡先生)。
「PCIが必要となった場合、心臓血管内科にコンサルトがあってから、10~20分で再開通させたいという思いで取り組んでいます」と話すのは、心臓センターの心臓血管内科部長を務める舛田一哲先生。「ハートチームのスタッフが常駐しているので、夜間の緊急カテーテルも定期のカテーテルと同じような感覚でスムーズに進められるのです」。
臨床工学救急管理室技士長の太田雅文さんは、夜間のハートチームの質を維持するため、臨床工学技士1人が当直、もう1人が待機という体制を徹底しています。「最近は専門性が非常に高くなっているため、臨床工学技士の担当を心臓カテーテルなどの内科系、人工心肺などの外科系といったように分けています。夜間は、例えば内科系の技士1人が当直なら、外科系の技士1人が待機者となり、外科手術が必要になったときに呼び出します。待機者がセンターに到着するまでの間は、当直者が初動対応に当たるようにしています」。
チームのガバナンス~規律・修練・実践~を徹底
松岡先生がDTBTを短縮するために気を付けているのは、普段からハートチームとカテーテル室のガバナンスを徹底すること。「毎朝、その日の症例をチーム全員で確認して、治療のポイント、危ないところ、乗り越えなければいけないハードルなどを多職種で認識します。また、こういう状況になったら上級医を呼ぶというルールも設けています」。さらに「急性冠症候群、特に心筋梗塞では、DTBTを縮めるほど死亡率が低くなることを、救急外来からカテ室のスタッフまで共有し、リレーで言えばバトンを速やかにつなげるよう、普段から啓発に努めています。スターターからアンカーまで、症例に関わる全員の努力が結果に直結するのです」とも。病院全体の効率的な運用とモチベーションの維持が、院内での迅速で円滑なバトンリレーには何より重要とお考えのようです。
DTBT短縮に向けた手技上の工夫について、舛田先生は「やはり普段のPCIで症例数を積んで習熟することが重要だと思っています。待機症例でしっかり訓練を積んでいくことが大事ですね」と話します。最も難しいとされるCTO症例については、「あらゆる可能性を想定して手技の手順をしっかり予習することが、成功させるだけでなく安全面からも大切」と後輩医にアドバイスしているそうです。
さらに、「個人的には普段からサポートやバックアップなどが強いガイドカテーテルを使って手技をするようにしています」と言い、「血管内で作業するときの足場であるガイドカテーテルのサポートやバックアップの力が弱いと、治療デバイスを複雑病変に通過させにくく、ワイヤーや別の道具を追加したり、デバイスを入れ替えたりといった手間が増えます。そうやってガイドカテーテルひとつとっても選択する道具次第でその後の手間や手数が変わりますので、先を読んで工夫することで速くて確実な治療を実践したいと思っています」と話します。
心臓血管内科医長の中島貫太先生は「メディカルスタッフの協力により、採血結果を待つ時間、スタッフが到着するまでの時間など、さまざまなタイムロスをなくす努力がDTBTの短縮につながっていると思います」と話します。
太田技士長は「私たちの部門には救急救命士も在籍していて、3台あるドクターカーのうち心臓センター用の1台が出動する際には、心臓センターの内科医または外科医、臨床工学技士とともに同乗します。搬送中にその救急救命士から当管理室にPCIの必要性について連絡が来るので、救急車到着後は速やかに手技を始めることができます。こうした救急救命士との連携は非常に大事ですね」。臨床工学技士としては「それぞれの先生がよく使用するデバイスをあらかじめ把握しておくなど、治療スタイルに合わせて、ストレスがないよう対応するように心がけています」と細やかな配慮をしています。
院外ハートチームとの連携により外科手術が増加
同センターは、外科手術にも積極的に取り組んでいます。手術件数は年々増加傾向にあり、2017年は394件で京都府第1位。2018年は425件に上り、うち215件が胸部心臓大血管手術でした。冠動脈バイパス術(CABG)は2017年に45件行われており、これも京都府で1、2位を争う件数です。さらに、急性大動脈解離は年間40件以上、胸部大動脈瘤単独と合わせると60件前後となり、京都府で最多と推定されています。外科部門の手術として最も多いのは年間100件前後に及ぶ大動脈ステントグラフト留置で、内科的治療と外科手術を1つの部屋で施行可能なハイブリッド手術室を使用して行われています。
「手術が多く、毎日手洗いしています」と話す心臓血管外科部長の小林豊先生は、その理由について「他の病院や診療所の循環器内科からの緊急手術依頼を広く受け入れているから」と話します。他院からの紹介は医療圏外のものもあり、年間手術件数の約3分の1を占めます。「院外ハートチームといった形で他院と連携を取っていて、気軽に緊急コールをいただいています」。もちろん院内のハートチームにおける連携も「十分図れていますから、内科から一声かけてもらえればすぐに受け入れられる体制が常に整っています」と胸を張ります。
外科と内科の連携で新たな治療法の導入が可能に
同センターでは近年、主に弁膜症に対し低侵襲手術(MICS)を実施するケースが増えています。小林先生は「MICSは手技的にそれほど難しいものではありませんが、麻酔の導入法が特殊であったり、いつもは使わないカテーテルを使用するといった特徴があるので、ハートチームとしての慣れやスタッフ間のより緊密な連携が必要になります」と話します。新たな治療法の登場がハートチームの在り方にも変化を与えているようです。
松岡先生は「最近は、外科が存在することで内科が生きたり、逆に内科があることで外科が生きてくるということを強く感じています」と言います。「例えば、1人のACS患者さんのここまでは内科でPCI、ここから先は外科でCABGといったように、両科の治療をトータルで行えるようになりました」。心不全の場合なら「ゲートキーパーは内科ですが、場面転換を図るときは外科の手技が必要になったり、その後また内科が継続的に診療するといった中で、お互いのリクエストが具体的になりました。外科に対して、こういう治療を行ってほしいと言えるのは心臓センターならではと思いますね」。他院の循環器内科で治療に難渋した患者さんが同センターの外科に紹介された場合は「手術まで患者さんの状態を落ち着けるように内科でPCIを行うことがありますが、それも外科がいるからこそ可能なのです」とも。お互いの存在がさまざまな治療の可能性を広げることに寄与していると言えそうです。
同センターには最近、補助循環用ポンプカテーテルが導入されました。これは、経皮・経管的にポンプカテーテルを左室内に挿入し、左室内の血液を大動脈に送り出す順行性補助循環システムです。松岡先生は「ACSで心原性ショックを呈した症例や重症心不全合併例に対する治療として、地域医療の福音になっています。これも外科がいるから導入できるのです」と期待を寄せます。中島先生は、補助循環用ポンプカテーテルについて「患者さんの利益になるニューデバイスとして、メディカルスタッフとも相談しながら適切な使い方を考えていきたいですね」と話しています。
スタッフ教育は「地域のニーズに応える姿勢を見せ続ける」ことが大事
「はやい、うまい、やすい」治療を行うには、どのようなスタッフ教育が必要なのでしょうか。松岡先生は「ただひたすら地域のニーズに応えていくという姿勢を見せ続けることが一番大事だと思っています。うちは体育会系というより軍隊式。厳しいけれど愛情は持っているつもりです」と語り、ご自身もそうした環境で成長したことを明かします。
小林先生は「当院のように毎日手洗いをするほど手術が多い施設はなかなかありません。若い先生には多数の症例を経験してもらいたいですね」。舛田先生は「うまくなるには何より経験ですが、漫然とやるのはよくない。1つ1つなんでこうするのかを考えながらトレーニングしていくことが大事です。成長するのはドクターだけでなく、メディカルスタッフも一緒にと考えています」と話します。
舛田先生はさらに「松岡先生の方針でもありますが、何かあったらすぐ連絡する習慣を身に付けることが基本です」。太田技士長も「報告、連絡、相談することは絶対破ってはならないルール」と教えていると言います。
「10年後も当センターは発展し続けていってもらわないといけません」と松岡先生。現状に満足せず、地域医療にいっそう貢献していくことを誓われました。
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EVO214149MH1(2021年6月作成)