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ハートチームの緊密かつ円滑な連携が患者さんの生命を救う

ハートチームの緊密かつ円滑な連携が患者さんの生命を救う

北海道札幌市・医療法人徳洲会 札幌東徳洲会病院

 札幌東徳洲会病院では、「24時間決して断らない救急受け入れ」という理念の下、積極的に救急患者さんを受け入れています。急性心筋梗塞、不安定狭心症などの急性冠症候群(ACS)に対する経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の年間施行件数は、約750件に達しています。こうした実績を支えているのは循環器内科医だけでなく、心臓血管外科医、看護師、臨床工学技士、放射線技師、薬剤師、栄養士、リハビリスタッフなどの多職種で構成されるハートチームの緊密な協力と連携によるものです。同院のハートチームの魅力について、スタッフの皆さんにお聞きしました。

お話を伺った方々
山崎誠治先生(副院長、循環器内科部長)
片桐勇貴先生(循環器内科医長)
奥田正穂さん(臨床工学技士長)
桒田 奏さん(看護師、循環器病センター副主任)

毎朝のカンファレンス、週2回のハートチームカンファレンスが情報共有の要

「循環器領域では、多職種によるハートチームを組み患者さんに最善の治療を提供することが常識となっています。例えば、心筋梗塞の治療についてはPCIだけでなく、病態や予後、QOLの観点から心臓バイパス術(CABG)が勧められる患者さんもいらっしゃいます。患者さんにさまざまな選択肢を提示し、最善の治療が提供できるような施設づくりを心がけています」と理想を語るのは、同院副院長で循環器内科部長の山崎誠治先生。同院のハートチームでは、毎週2回火曜日と木曜日に循環器内科医と心臓血管外科医、看護師などのメディカルスタッフが集まり、ハートチームカンファレンスを開催し情報共有や症例の検討を行っています。

 加えて、循環器内科では月曜日~土曜日の早朝に独自のカンファレンスを開き、前日治療した全症例について、全員でシネ画像を見ながらディスカッションしています。また、当日治療が予定されている症例についても治療方針の妥当性を確認します。循環器内科医長の片桐勇貴先生は「これまでに右冠動脈のACSで血栓が多くて血栓吸引でもなかなか吸い切れなかった症例、心原性ショックを合併して経皮的心肺補助装置(PCPS)の導入により救命できた症例といった対応が困難な症例を経験しましたが、毎朝のカンファレンスでもしっかりと相談できる時間が取れるため、1人で抱え込むことはありません」とカンファレンスの意義を語ります。

 院内には256列CTを含むCTが2台、循環器専用機を含むMRIが2台、循環器専用アンギオ装置が4台導入されており、循環器内科医と心臓血管外科医がともに治療に当たるハイブリッド室を含め心臓カテーテル室が3室用意されています。

循環器内科と心臓血管外科の連携がもたらすメリット
~緊密な連携により24時間救急体制が可能に

 同院では、最新治療を積極的に取り入れています。2017年4月に開始した経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)の年間施行件数は160件に上り、2019年5月には経皮的僧帽弁形成術を導入しました。山崎先生は、こうした最新治療の導入には循環器内科と心臓血管外科の連携が欠かせないと強調します。「循環器内科で超音波検査を施行して弁膜症が見つかり、それが原因で心不全を発症している症例の場合、そのまま内科的治療を継続した方がよいのか、手術を行った方がよいのか、判断に迷う場合があります。こうしたとき、ハートチームカンファレンスでのプレゼンテーションや心臓血管外科へのコンサルティングができることで大変助かっています。最近では冠動脈石灰化が高度に進行した症例でも、高速回転冠動脈アテレクトミーなどを使用することでPCIが可能になったケースがある半面、年間200例を超える開心術を手がけている心臓血管外科に手術を依頼したい症例も少なくありません」。

 片桐先生も「ここ数年は、内科と外科が密接に関わりながら治療方針を決定しています。特に、最近は経皮的僧帽弁形成術を開始したことから、僧帽弁閉鎖不全へのカテーテル治療がよいのか、外科的に僧帽弁形成術を行うのがよいのかについて必ずディスカッションして治療方針を決めています」と心臓血管外科との連携を重視しています。

 さらに山崎先生は「深夜にACSで救急搬送され、手術適応と判断される症例や緊急PCI施行時にトラブルが発生したときなども、心臓血管外科に対応を依頼する必要があります。そのようなとき、心臓血管外科の先生方は、24時間いつでも嫌な顔ひとつせずに対応してくれます。しかも、皆さん腕がいい。そういう意味で、心臓血管外科の先生方が協力的だということは、とてもありがたいことなのです」と話します。

 循環器内科から心臓血管外科に手術を依頼した症例は、翌週のハートカンファレンスで経過や術後の状況を報告しています。

循環器診療に対するモチベーションの高いスタッフが集結

 同院のハートチームの特徴として、医師をはじめメディカルスタッフの士気が極めて高いことが挙げられます。山崎先生は「循環器内科医は、若手を含めて全員が徳洲会グループの病院で初期研修、後期研修を受けています。初期研修では総合医療医の基礎を築くべく研修を行います。研修目標は、全人的医療を行うために必要な基礎的知識や技術の習得です。そのため、循環器内科のことしか知らないという人材ではなく、Primary Careや外科の初歩である切ったり縫ったりといったことができるようにします。研修期間を通じて、Primary CareとEmergency Careを身に付けてきているため、そういう意味ではジェネラリストであり、スペシャリストでもある医師の集団といえるかもしれません。若手が熱い気持ちで循環器診療に取り組んでいるところが、大きな特徴であると自負しています」と語ります。

「当院は多数のACS症例を経験できることに加え、PCIのパイオニアの1人である斎藤滋循環器センター長から直々に手技を学ぶことができます」と同院の魅力を説明する片桐先生は、「医学生のころ、ACSはPCI治療により血行が再建でき、症状も取れることを知り、患者さんだけでなく術者も効果を実感しやすい点に魅力を感じました」と循環器内科医を志した理由を話します。「齋藤先生や山崎先生から、PCIには合併症が付き物であり、二歩三歩先を読んで慎重に手技を進め、万が一、合併症を発症した場合でも安全に治療を完結できるように手段を講じておくことを学びました」と言い、このことは現在でも肝に銘じていて、日ごろから若手医師に伝えているそうです。

 循環器病センター副主任を務める看護師の桒田奏さんは、看護師4人体制で3室のカテーテル室を担当するという非常に多忙な日々を送っています。「カテーテル業務を担当する看護師は皆、循環器の仕事が大好きです。少ない人数で多くの業務をやりくりすることはとても大変ですが、休憩時間にも『今日はこういった患者さんが来て、このように対応した』と話し合うなど、循環器診療が好きだという気持ちにあふれています」とモチベーションについて語ります。

JCIの認証取得施設として安全管理にも注力し、
新しいデバイスや治療法を積極的に導入

 同院は、高度石灰化病変に対する高速回転冠動脈アテレクトミー、ダイヤモンドバック(OAS)、方向性冠動脈粥腫切除術(DCA)など、心臓カテーテル検査や治療のための新しいデバイスを積極的に導入してきました。臨床工学技士長の奥田正穂さんは「当院にはPCIを安全かつ効率良く進めるためのデバイスがそろっており、症例によって使い分けることができるのが強みです。例えば、慢性完全閉塞病変(CTO)の場合はより通過性の良い血管内超音波検査(IVUS)のデバイスを使ったり、再狭窄症例では光干渉断層法(OCT)アンギオグラフィーでプラークのリピッドコアを確認したりすることもできます」と説明します。片桐先生も「他施設から高度の石灰化病変を有する症例が紹介されるケースが多く、高速回転冠動脈アテレクトミーの経験を積めることも魅力の1つです」と言います。

 山崎先生は「医師やメディカルスタッフはこうした新規のデバイスやTAVI、経皮的僧帽弁形成術の導入に際しても非常に協力的で、むしろ積極的にその意義を認めて診療に生かそうという気概を示してくれています」と話します。

 同院は、2015年12月に国際医療安全基準(JCI)認証を取得しており、認証を得るプロセスを利用し、患者さんの安全の徹底・医療の質の向上を目指しています。

PCI技術の習得を熱心に支援
~循環器内科は全員がPCIに習熟している

 また、循環器内科医全員がPCIに習熟できる環境にあることも同院の特色の1つです。「私は、循環器内科に所属している以上、PCIは全員ができるようになるべきだと考えています。そのため、初期研修の2年間で基本的な造影検査を数多く行い、後期研修の2年間では積極的にPCIの施行を経験し、研修が終わるころには少なくともPrimary PCIが1人でできるようになるよう、指導しています」と話す山崎先生。

 施設によっては、高度な手技になるほど上級医が担当者となり、若手が携わる機会が少ないとされていますが、同院では難しい症例でも熟練した術者の手技を見学したり、指導医のサポートを受けたりしながらマンツーマンでしっかり習熟できるような体制が整えられています。

 また、外来受診や救急搬送された患者さんと最初に接した医師が主治医となり、PCIを施行する方針を取っています。
「患者さんやご家族は、インフォームド・コンセントの場でPCIの説明をしてくれた医師に治療も行ってほしいと願っています。私自身もPCIの説明を行った患者さんには自分で治療しています。若い医師にも指導医のサポートの下ではありますが、責任を持ってPCIを完結させ、退院後は外来でフォローするという経験を積んでもらうようにしています」(山崎先生)。

夜間の緊急ACSに対しては、医師2人、看護師1人、臨床工学技士3人、放射線技師1人で対応
~急病救急24時間365日対応システム

 ACSの発症は深夜から明け方にかけての時間帯が最も多いとされ、同院にも多くのACS患者さんが搬送されてきます。深夜に救急隊から救急外来(ER)に「胸部症状とST上昇が見られる患者さんを搬送します」とのコールが入ると、1番待機の循環器内科当直医と2番待機の医師、看護師1人、臨床工学技士3人、放射線技師1人が招集されます。山崎先生は「救える患者さんが救えなくなる事態を防ぐため、夜間・緊急の体制はしっかりと整えています」と強調します。

 臨床工学技士が3人必要なのは、冠動脈造影およびPCIのためのデバイス・機器、アンギオ装置の他、PCPSや大動脈内バルーンパンピング(IABP)、DCショックなどのセッティングと並行して診療を進めなくてはならないからです。奥田さんは「外回りに1人、カテーテル室に2人の臨床工学技士が入ります。術前情報を収集した看護師や放射線技師とその場で情報共有を行いながら対応しています」と話します。

 患者さんが到着しACSと診断されたらすぐにカテーテル室に運び、治療を迅速かつ適切に進めます。医師は患者さんに意識があればご本人に治療方針をお伝えするとともに、ERにある家族控室で待機するご家族に治療方針を説明し承諾書を書いてもらいます。治療経過についてはご家族には治療後すぐに、患者さんご本人には動けるようになってから、必ずシネ画像を見せながら丁寧に説明します。

 なお、同院では緊急の患者さんも含めて、検査などでカテーテル室を使用する場合の調整は看護師が行っています。「救急搬送される患者さんが多いときや検査が立て込んでいるときは、3室あるカテーテル室にどの順番で入ってもらうか、先生方やメディカルスタッフにどのように担当してもらうか、調整に頭を悩ませることも少なくありません」(桒田さん)。

互いに他職種の仕事を補い合いながらチームワークで対応
~ハートチームの緊密かつ円滑な連携

 同院では、メディカルスタッフ間の連携が緊密です。「深夜に緊急PCIを施行するときなど、看護師がバイタルを知らせてくれたり、臨床工学技士が次に使用するデバイスを提案してくれたりなど、メディカルスタッフの存在を心強く感じています」と話す片桐先生。奥田さんは「臨床工学技士は、術者が手技に集中できるように機器やデバイスをセットアップし、適切な声がけをするよう努めています。また、私は言われなくても血管径を測り、術者に伝えるようにしています。そうすることで、自分自身の読影力も上がると考えています。また、清潔野介助やフレーミングも行っています」と積極的な姿勢を示します。桒田さんは「先生方には手技に集中し、安全かつ適切に治療を完結できるよう、看護師が患者さんに声かけをしたり、患者さんの様子を知らせたりしています」と話します。

 同院はACS症例数が多く、緊急PCIが必要な患者さんが集中することが多々あります。循環器内科医やメディカルスタッフが個別に自分の仕事をこなしているだけでは、患者さんに対応し切れませんが、多職種が協力し合いながらカバーしています。

「互いに他職種の仕事を補い合いながら、それぞれのスタッフがバラバラな方向を向かないよう情報共有し、円滑に仕事ができるよう心がけています。強いチームワークこそが一番大事だと思います」と話す桒田さん。奥田さんも「患者さんの移動を臨床工学技士が手伝うこともあります。多職種同士で助け合っていかないと、これだけの症例数に対応するのは困難です」と語り、山崎先生は「それぞれが自分の役割をきちんと自覚するだけでなく、先を見越して動くことが重要です。当院ではそれが実行できています」と胸を張ります。

 PCIの術者である循環器内科医とメディカルスタッフによるハートチームの緊密かつ円滑な連携こそが、同院のACS治療の要といえそうです。

医療法人徳洲会 札幌東徳洲会病院
〒065-0033 北海道札幌市東区北33条東14丁目3-1
TEL:011-722-1110 (代表)
URL:https://www.higashi-tokushukai.or.jp

 

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