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ハートチームの熱い魂で地域住民の役に立つ循環器専門病院を目指す

ハートチームの熱い魂で地域住民の役に立つ循環器専門病院を目指す

愛知県名古屋市・名古屋ハートセンター

 名古屋ハートセンターは、循環器医療救急に特化した循環器専門病院。2008年10月の開院以来、24時間365日、循環器内科医と心臓血管外科医、さらに心疾患診療の経験が豊富なメディカルスタッフが常駐し、名古屋市北部および周辺地域の住民に安全で質の高い循環器医療を提供しています。母体である豊橋ハートセンターから継承した高度のカテーテル治療と外科手術、リハビリテーション、栄養指導などを組み合わせた総合的な循環器医療は、多くの患者さんに良好な長期予後をもたらしてきました。ハートチームで活躍する皆さんに、同センターが目指す世界最高水準の心臓病治療に向けた取り組みを伺いました。

名古屋ハートセンター
お話を伺った方々
鈴木頼快先生(循環器内科 診療部長)
澤城梨沙さん(副看護師長、カテーテル室看護師リーダー)
岡本隆嗣さん(臨床工学技士主任)
小林俊博さん(放射線科 診療放射線技師長)
鶴田真由美さん(看護師主任、4階看護師リーダー)
島田晶子さん(管理栄養士主任)
柴田賢一さん(理学療法士主任、心臓リハビリテーションリーダー)
落合広明さん(薬剤師主任)

7人の医師で年間約800件のPCIを施行

鈴木頼快先生

 名古屋ハートセンターでは、新しい治療法を積極的に導入しています。大動脈弁狭窄症に対する経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)は、東海地区で最多の施行件数を誇ります。わが国で2018年4月に承認された経皮的僧帽弁形成術は、同年6月に開始しました。さらに、心房細動患者の脳梗塞予防に対し抗凝固療法を上回る影響をもたらすと報告されている左心耳閉鎖術(LAAO)も、近々導入する予定です。

 一方、日本の循環器医療の発展に大きく貢献してきたのは、やはりインターベンション治療です。同センターの年間施行件数は冠動脈造影(CAG)が約2,500件、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)は約800件(緊急PCIは約150件)に及びます。その大半は、他院から紹介されてきた患者さんです。慢性完全閉塞病変(CTO)の症例は年間約80例、手技成功率は約92%です。

 近年、多くの医療機関がPCIを手がけるようになってきましたが、同センターのPCI施行件数は今なお増加を続けています。年間約800件のPCIを行うのは7人の循環器内科医。その先生方をまとめる循環器内科診療部長の鈴木頼快先生は「当院ではこれまでずっと、外来当日にCT、エコーなどの検査を行い、その結果を患者さんに説明し、紹介患者さんの場合は紹介元の先生に返事を出すというワークフローが定着していました。しかし、ここ3、4年で患者数が急激に増えたため、一部の患者さんで即日対応できないケースが出てきています」と言います。現在のスタッフ数では手いっぱいの状況で、「現在3室あるカテーテル室をフル稼働させて対応していますが、年内には4室に増やす予定です」と、ハード面の拡充をもって患者増に対応していく方針を示されました。

メディカルスタッフの提言、助言でより安全なPCIが可能に

澤城梨沙さん

 鈴木先生によると、PCI施行時にカテーテル室に入る医師は基本的に1人。状況に応じてオンコールでもう1人が加わります。さらに、カテーテル室にはカテーテル室担当看護師、診療放射線技師、臨床工学技士がそれぞれ1~2人加わります。

 当然ながら、メディカルスタッフはそれぞれ重要な役割を果たしていますが、同センターでは医師がよりPCI手技に集中できるような体制を取っています。「カテーテル室でメディカルスタッフが器械出しをしたり、機器の操作をしたり、限られた仕事を行っている施設もありますが、当センターでは常に心電図や血圧などのバイタルに注意を払い、医師にさまざまな提言、助言をしてもらっています」と鈴木先生。例えば、点滴内容の変更、昇圧、補助循環の導入などについても、メディカルスタッフが目を配ってくれるのです。「もちろん最終的には医師が責任を持つわけですが、極力悪くなる一歩二歩手前で気付きたい。メディカルスタッフの協力があるからこそ、より安全なPCIが可能になっていると考えています」。

 カテーテル室看護師リーダーで副看護師長を務める澤城梨沙さんは「当センターは患者数に対して医師数が少ないので、医師以外でもできることはメディカルスタッフで補おうという暗黙の了解があります」と打ち明けます。「カテーテル挿入部位の消毒や患者さんに清潔シートをかけるといったことは、メディカルスタッフが行います。医師がカテーテル室に入ったらすぐに手技を始められるように、他のメディカルスタッフと力を合わせています」。

「メディカルスタッフが思ったことを言い出しやすい環境を先生方がつくられているのが大きいと感じています」と語るのは、臨床工学技士主任の岡本隆嗣さん。カテーテル室で血管内超音波法(IVUS)や光干渉断層法(OCT)の画像を観察しながら「ステントの遠位側がどうなっているかを伝えたり、途中で『血管径が小さいので、このまま膨らませると危ないですよ』といった助言をしています」と具体例を挙げるとともに、「メディカルスタッフは全員、術中の医師の話を一言も漏らさぬよう、常に耳を傾けています」と話します。

 血管撮影・インターベンション専門診療放射線技師と臨床工学技士の資格を併せ持つ診療放射線技師長の小林俊博さんは「メディカルスタッフでもある程度の知識があればさまざまな提言ができ、先生方も真摯に聞いてくれる。それがハートチームの強みであり、チーム全体で患者さんを診ることで良好な予後が得られる。そこにわれわれが携われるのはうれしいですね」と語ってくれました。

無駄なことはしないことが、迅速なPCIにつながる

岡本隆嗣さん

 救急搬送されてきた急性冠症候群(ACS)症例では、来院から再灌流が得られるまでの時間(Door to Balloon time;DTBT)が短いほど、予後が良いとされています。各種ガイドラインで90分以内が目標とされている中、同センターのDTBTは平均約50分となっています。一般的な総合病院では、診断カテーテルに60分ほどかかってしまう場合もあるようですが、「当院では約10分で終わります」と鈴木先生。「循環器の単科病院であるからこそ可能なのですが、そのちょっとした違いが患者さんに優しい医療につながるのだと思います」と胸を張ります。

 鈴木先生が迅速なPCI施行のために心がけている点は、「無駄なことはしない」ということ。「例えば、僕がアンギオを見て全て判断できると考えた場合は、さらにIVUSを行って再確認することはしません」。

 10人の放射線技師のローテーションをやりくりする小林さんは「夜間は基本1人待機です。呼び出しのあるスタッフは病院から30分以内に住んでいます。スタッフが集まらないから治療が始まらないという事態は絶対に起こらないよう心がけています」と強調します。

 臨床工学技士は夜間2人体制で、ベテランと新人がペアを組みます。岡本さんは「当センターはカテーテルの治療数が非常に多く、先生方の手技も速いので、それについていこうと必死に経験を積んでいくうちに、新人でも2年たてば迅速なPCIに対応した業務が行えるようになります」と言います。

患者さんのあらゆる情報をデータベースで共有

小林俊博さん

 カテーテル治療中の詳細な経過は、澤城さんら手術室・カテーテル室の看護師がデータベースソフトで作成したカテーテル台帳にリアルタイムに入力しています。「病棟看護師もナースセンターでカテーテル台帳の内容をリアルタイムに見ることができるので、申し送りをする前にほぼ把握してくれています」と澤城さん。さらに「手術室・カテーテル室担当看護師は、病棟看護師向けに患者さんごとのカテーテル治療の要点を平易にまとめたメモをつくり、それも使って申し送りするようにしています」。

 カテーテル治療当日の朝には、治療に参加する医師とメディカルスタッフによるカンファレンスを行います。「その内容はデータベースに入力され、カンファレンスに参加できなかったスタッフがいつでも共有できるようにしています」(岡本さん)。

 患者さんごとのデータファイルには、各スタッフによりその他のカンファレンスや心臓リハビリテーション、栄養指導などの内容および進捗状況も入力されます。全てのスタッフが必要なときにいつでも参照することができる仕組みになっているのです。

夜間尿を用い電子式食塩センサーで減塩達成度を評価

鶴田真由美さん

 同センターがPCI後の対応で大事にしているのは、患者さんの10年、20年後の良好な予後を見据えた治療とケアです。

 心臓カテーテル担当看護師を5年ほど務めた後、2018年10月に冠動脈疾患集中治療室(CCU)がある4階病棟のリーダーとなった看護師主任の鶴田真由美さんは、インターベンションエキスパートナース(INE)の資格を持つベテランです。「PCIが終わった直後の患者さんにはいったんゆっくりしていただいて、その後で情報収集を行うようにしています。どのようなお仕事に就いているのか、ライフスタイルは朝型か夜型か、外食か自炊かなど、テンプレートに沿ってできる限り詳しく質問していきます。ACS患者さんの場合は、特に家族歴、喫煙、高血圧の有無や治療の状態、虚血性心疾患などとの関連が示唆されている歯周病や歯の状態などを伺います」。これらの情報は、退院後の心臓リハビリテーションや栄養指導にも活用されます。

 病棟には栄養士も必ず訪問します。管理栄養士主任の島田晶子さんは「ACS患者さんは食生活が乱れている人が多いため、入院時にはできるだけ早期に訪問し、当院独自のプロトコルに沿って食生活背景などを含めた栄養状態を評価し把握するようにしています。退院後のリハビリの一環として月1回行う栄養指導では食生活などにおける問題点を抽出し、フレイルや心不全の有無、程度を踏まえて目標を設定し、減塩、脂質や体重の管理について介入するようにしています」と話します。島田さんらは、2018年の日本病態栄養学会で、減塩を達成できた人は血圧の低下に加え心機能の改善も期待できることを報告しています1)。しかし、減塩が達成できているかどうかの評価は難しいのが現状です。そこで同センターでは、心臓リハビリテーション通院中の患者さんに対し、夜間尿を用いた電子式食塩センサーによる評価を行っています。「医師にさまざまな提案ができるよう、栄養士としての専門的知識を高めるだけでなく、日々責任を持って患者さんと接するようにしています」と話す島田さんは栄養士として高いモチベーションを保ちながら業務に当たっています。

CPXでどこまでの運動が可能かを具体的に評価

島田晶子さん

 「通院の心臓リハビリテーションはできるだけ早期に開始すること、各職種との協力により個々の患者さんの運動機能、身体機能に応じたプログラムをつくることを大切にしています」と話すのは、心臓リハビリテーションリーダーを務める理学療法士主任の柴田賢一さん。「テニスや山登りを再開したいと希望する患者さんには、心肺運動負荷試験(CPX)でどの程度の運動が可能かを具体的に評価するようにしています」と言います。また柴田さんらは、心臓リハビリテーションからの脱落の原因として抑うつが重要であることを報告しており2)、心理テストを定期的に行い、抑うつの早期発見に努めています。

 退院時の服薬指導に当たる薬剤師主任の落合広明さんは「出かける際にトイレを気にして利尿薬を飲まない、最近血圧が下がったから降圧薬を自己判断で中止してしまうという患者さんもみえます。処方された薬はどれも必要なのですが、最低限の服薬として抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)だけは絶対に続けてほしいと伝えるようにしています」と言います。

 良好な長期予後を得るには、緊密な地域医療連携も欠かせません。鈴木先生は「当センターに患者さんを紹介いただいた施設には、暇を見つけて積極的に訪問し、顔の見える連携を心がけています」と話します。

 こうしたさまざまな治療・ケアと地域連携を組み合わせることで、患者さんのより良好な長期予後が期待されます。同センターに入職して10年が経過した鈴木先生の外来には、入職当時にPCIを行った患者さんが今も元気に通ってこられます。これは、実際の経験に基づいたエビデンスともいえるでしょう。「この患者さんがさらに10年元気でいられるか。ハートチームを含めた地域医療に求められる課題ですね」と鈴木先生は語ります。

代替わりしても開設時の気持ちを忘れず、地域住民の役に立つ循環器専門病院でありたい

柴田賢一さん

 最後に、お話を伺ったスタッフの皆さんに、ハートチームとしての在り方や若手のスタッフに望むことをお聞きしました。

 柴田さんは「理学療法士同士だけでなく、それぞれの専門職を尊重しながら、言いたいことは言う。信頼関係が築かれているからこそ、そうしたことが可能なのです。また、どのような仕事をしているのか、互いを知ることも重要ですね」。岡本さんは「臨床工学技士として上に立つ者は常に、ここまでできれば次のステップがあること、可能性がどんどん広がっていくことを若手に見せるのが重要だと思っています」。小林さんは「放射線技師は画像屋として、診断・治療の手助けとなる絵を提供することを常に意識し仕事に取り組んでおり、若手スタッフにも意識するように伝えています。ただ、レントゲンやCTなどの画像検査は被曝や造影剤投与、息どめ、撮影体位など患者さんにとって検査自体が負担になることが多いのが実情で、患者さんから感謝されることは少ないです。しかし、ACS治療の場合は、一時は死と隣り合わせになった患者さんが、迅速な治療をすることで、症状の軽減や血行動態の安定をその場で感じることができます。そして笑顔で退院されていく。ハートチームの一員として、そうした治療に陰ながら携われることをいつも感謝したいと考えていますし、若手にも経験してもらいたいと思います」。

落合広明さん

 澤城さんは「ハートチームで働くスタッフは心身ともに健康でなければ、患者さんを元気にしてあげられないと思うのです。当センターの業務はかなりハードですが、それだけに、スタッフには仕事だけの人生にならないようにしてあげたいですね」。鶴田さんは「当センターは本当に忙しいけれど、やる気のあるスタッフが集まっています。その気持ちを大切にしながら、全員で楽しく仕事をしていきたいです」。

 島田さんは「栄養指導をどれだけ繰り返しても検査値が改善しなかった人が、薬剤の進歩によりたった1本の注射で正常域に落ち着くことがあります。しかし、栄養士は口から入る栄養が大切であること、すなわち食事は治療の一環であり重要であるということをきちんとエビデンスに基づいてプレゼンしていかなければならないと考えています」。落合さんは「患者さんの予後を見据え、薬剤師も心臓リハビリテーションなどのチーム医療に積極的に関われるようになりたいと考えています。さらに、循環器以外の疾患、例えば感染症の治療などにおいても薬剤師としてフォローしていきたいと考えています」。

 締めくくりとして、鈴木先生は「近所の人たちに愛されるうまいラーメン店のように、当センターは地域住民の役に立つ循環器専門病院でありたいと願っています。今後、30年、40年と、代替わりしても開設時の気持ちを忘れずに続いていってほしい。若いスタッフにはそういうところを大事にしていってもらいたいですね」と、将来を展望しつつ、心のうちを話してくださいました。

 ハートチームの皆さんの真摯で熱い魂は、これからも多くの人々の命を救い、その人生を明るく変えていくことでしょう。

1)島田晶子、他. 日本病態栄養学会誌 2018; 21(suppl): S-162

2)柴田賢一、他. 心臓リハビリテーション 2017; 22(4): 309-312

名古屋ハートセンター
〒461-0045愛知県名古屋市東区砂田橋1-1-14
TEL:052-719-0810(代表)
URL:https://nagoya.heart-center.or.jp/

 

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