北東北の地域医療を担い、新病院でさらに高い水準のPCI治療を提供
北東北の地域医療を担い、新病院でさらに高い水準のPCI治療を提供
岩手県紫波郡・岩手医科大学附属病院
岩手県全域はもとより、北東北の急性冠症候群(ACS)患者を受け入れ、高水準の冠動脈治療を提供する岩手医科大学附属病院。同大学内科学講座循環器内科分野 教授の森野禎浩先生をリーダーに、“24時間365日断らない医療”と、“国内最高水準の医療”の2つの理念を掲げてきました。2019年9月には盛岡市内から紫波郡矢巾町に病院を移転し、これまで以上に効率的かつ安全性の高いACS急性期医療が期待される中、ハートチームの現状と、チーム医療の一員としてそれぞれのスタッフがどのような取り組みを行っているかについて、4人の方々にお聞きしました。
お話を伺った方々 |
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石曾根 武徳先生(内科学講座循環器内科分野 助教) |
高橋 裕梨さん(看護部 看護師) |
岩城 龍平さん(中央放射線部 診療放射線技師) |
吉田 悟さん(臨床工学部 臨床工学技士) |
岩手県で最多、東北でもトップクラスのPCI治療実績
本州の北東部に位置する岩手県は、東西約122km、南北約189kmと南北に長く、総面積は1万5,275.01km2と日本の都道府県では北海道に次いで2番目の広さです1)。県土が広大であることから、盛岡、岩手中部、胆江、両磐、気仙、釜石、宮古、久慈、二戸の9医療圏の中でも、盛岡、岩手中部、宮古の各医療圏は2000km2を超えており、各医療機関がカバーすべき診療圏も広くなっています2)。それぞれの医療圏には基幹病院が配置されていますが、盛岡医療圏に医療資源が集中している現状から、高度医療が必要となる例においては盛岡までの長距離搬送が頻回に行われます。
県内唯一の特定機能病院である岩手医科大学附属病院も、盛岡医療圏に限らず、県全域からの急性疾患患者を昼夜問わず受け入れる体制を備えています。特に急性心筋梗塞(AMI)を含むACSに関しては、同院の循環器内科における経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の年間施行件数が559件(待機的PCI370件、緊急PCI189件、2017年)と岩手県で最多、東北でもトップクラスの実績が広く知られていることもあり、釜石エリアや秋田県、青森県からも多くの患者が搬送されてきます。
新病院では設備拡充とCode AMI導入でDTBTを短縮
2019年9月、岩手医科大学附属病院は、将来にわたる高度先進的医療の提供と教育環境の充実を目的として、矢巾町の広大な敷地に新築移転しました。新病院は病床数が東北最大規模の1,000床(一般:932床、精神:68床)を有する大規模地域拠点病院です。施設内には、同大学が運営主体である岩手県高度救命救急センターも設置されています。盛岡市内丸に残った施設は内丸メディカルセンターと名称を改め、新たに開院しました。
新病院の循環器内科において特筆すべきは、心カテ室3、ハイブリッド室2、合計5室もの心臓カテーテル室を有していることです。内科学講座循環器内科分野 助教である石曾根武徳先生は「移転後は、ACS患者が救急搬送されて来てもカテ室の空きを待つことなくPCIを施行できる体制となりました。これはDoor to Balloon Time(DTBT)の大幅な短縮につながっています」と言います。閉塞性動脈硬化症(ASO)などに対する血管形成術(EVT)は心カテ室に隣接するアンギオ室で行われ、内丸メディカルセンターにもカテ装置が1基置かれていることから、両院を合わせると循環器内科では最大7基のカテ装置を同時に使用することができ、これは国内最大規模です。
救命救急センターはカテ室と隣接しており、看護師の高橋裕梨さんは「救急受診後すぐにカテ室に搬入できることもDTBT短縮に大きく貢献しています」と話します。ハートチームでは移転と同時にAMI患者さんが搬送されたら最優先で治療にあたる院内ルール“ Code AMI ”を導入しました。AMI患者さんが搬送されたら、救急科から循環器内科が引き継ぎ、緊急カテが必要であればCode AMIを発令します。全館放送で「今からAMIの患者さんが来ます。循環器内科の治療が優先されます」とハートチームのスタッフに周知され、カテ室のスタッフはすぐに集合し、緊急カテを実施する体制を最優先で整えます。
また、チーム全体で心カテ実施までのルーチン業務を見直した結果、必要最低限の業務以外は省略し、誰でもできる業務は手の空いているスタッフが行うことにしました。診療放射線技師の岩城龍平さんによると、チーム全員が普段からなるべく他職種のスタッフの仕事を見て覚えるように心がけているといいます。例えば、技師であれば「看護師や臨床工学技士の仕事を日ごろからよく観察し、専門の資格が不要で、一度身に付ければできるような業務は、実行するようにしています」(岩城さん)。患者さんが急変すると、看護師は薬剤を出したり、臨床工学技士は補助循環の機材を移動したりする中で、資格がなくてもできるような業務は進んで行うことで、検査を止めなくて済むことにつながります。
「新体制を機に、平日の日中においてDTBT40分を目標にしています」と石曾根先生は力を込めます。
救急車からの12誘導心電図伝送でカテ室搬入までの時間短縮を実現
岩手医科大学附属病院では、病院移転に先行して2012年よりヘリポートを矢巾町に設置し、ドクターヘリを運用してきましたが、移転後は同じ敷地内での運用となりました。県土が広大な岩手県において、ドクターヘリの担う役割は大きく、「例えば、PCI施行可能施設がない釜石エリアから患者を盛岡に陸送すると2時間以上かかるところ、ドクターヘリならば岩手県全域をほぼ30分でカバーできるため、処置や治療開始が格段に早くなります」(石曾根先生)。ヘリの運行範囲は基本的に県内ですが、秋田、青森、岩手3県の県境に位置する秋田県鹿角市から患者さんを搬送することも多く、他県との広域連携にも貢献しています。
また、救急車からの12誘導心電図伝送によりDTBTを短縮する取り組みも進められています。12誘導心電図伝送システムを搭載した救急車であれば、患者さんを搬送中に緊急カテの要否を判断して、受け入れの準備を進められるため、病院到着後すぐに治療を開始できます。伝送方式はクラウド型が便利で、救急隊員がモバイルネットワーク経由で専用のクラウドサーバーにアップロードすれば、医師はどこにいてもスマートフォンやタブレット端末、パソコンなどで心電図を確認できます。医療圏を越えて搬送する場合も、共通のシステム上で複数の医療者が心電図を閲覧することが可能です。
岩手県では2014年に県立二戸病院が県内で最初に導入し、ほぼ同じ時期に岩手医科大学附属病院でも始まりました。2015年には当時、県立宮古病院に赴任中だった石曾根先生が宮古地域でも開始しました。宮古病院ではこのシステム導入前後でDTBTが全体で32分短縮、夜間休日では58分も短縮されたといいます。「搬送距離が長い地域において、12誘導心電図伝送はよりDTBT短縮に貢献できます」と石曾根先生。岩手医科大学附属病院では、盛岡市内の紫波消防署配備の1台で同システムを実施する他、宮古病院など他地域から伝送される心電図が閲覧できる体制も整えています。「行政と連携し、盛岡市内での導入数を増やすことが今後の課題です」(石曾根先生)。
被曝抑制のため「放射線の見える化」に取り組む
岩城さんは、放射線技師として透視や撮影画像を真っ先に見る立場にあるので、画像への気付きを大事にしているといいます。とりわけ、画像上で見えるワイヤ先端の進行具合は重要な確認ポイントで、通常より進み過ぎている場合は、先生に伝えなければなりません。「画像を見る機会が一番多い技師の私がまず気付いて先生に伝える。その結果、なんらかの異変を見つけられたときが、チームに貢献できたと思う瞬間です」と岩城さん。このように技師として習熟するためには、読影件数をこなすことが重要なようです。「実はここが危なかったのではないかなど、技師同士で治療した患者さんの画像を復習する場を週に数回設けています。その際は、先生のレポートも見て、自分の見立てと合っていたかどうかを確認するなど、日々勉強ですね」(岩城さん)。
もう1つ、技師の重要な役割として、被曝を低減するための“放射線の見える化”にも取り組んでいます。「放射線は見えませんが、カテ室内の空間線量分布を実際に測定し、線量の高いスポットなどを図に示して貼り出すなど、注意喚起を行っています」(岩城さん)。
過度な放射線量は患者さんおよび術者の被曝につながるため、その最適化は技師としての大切な使命です。最適な線量とは、「低被曝かつ画質が担保できていること」だと岩城さんは言いますが、線量を下げるほど画質も下がります。そこで、どこで折り合いを付けるかは先生とディスカッションを重ねて決めています。岩城さんは「線量の最適化は、装置の最高のパフォーマンスを引き出せていることになるため、技師の腕の見せ所だと思います。条件は、患者さんの体格によっても変わってくるので、それを意識しながら先生が見やすい画像の提供を心がけています」と言います。
患者さんからの信頼を得られる存在を目指す
高橋裕梨さんは、循環器専門の集中治療室の病棟看護師として勤務しています。看護師は病院の中で患者さんに一番近い存在です。「PCIを受けたから大丈夫だと思ってしまう患者さんは多いですが、ACSになった原因を理解できないと、またACSで運ばれてくることになります。入院中にできるだけ患者さんと会話し、これまでの生活を一緒に見直す時間をつくることが大切です。患者さんに『この人に話してみよう』と信頼される存在になることを目指しています」(高橋さん)。
また、高齢患者さんも多いため、家族を巻き込んで、生活習慣の改善や、薬の服用などの重要性を意識してもらえるよう工夫しているようです。声がけするタイミングは、疲れ切ったPCI直後ではなく、安静状態が続いて患者さんの心が穏やかになってからするのがポイント。そのタイミングを見計らい、話し相手になる中で、退院後にすべき重要なことを伝えます。「高齢だと生活習慣をなかなか変えられないですが、『醤油はかけるのではなく、小皿に入れて付けるだけに』など、その人の生活習慣を聞きながら、これならできるのではないかということを提案していくと、理解してくれる患者さんも多いです」(高橋さん)。「ありがとう、助かったよと、元気に歩いて帰って行く患者さんを見ると、この仕事をやっていて良かったなと思いますね」と高橋さんは言います。
疑問を確認することで安全性向上に寄与
臨床工学技士の吉田悟さんが、ハートチームの一員として、PCI施行時に意識していることは、患者さんのイメージング画像だけでなく、アンギオ画像の両方を見ることです。両方の画像からステントの置き方や、バルーン治療の方法などを具体的に頭の中で描くことで、有効性と安全性が格段に向上します。「予測できることは限られていますが、可能な限り具体的に予測して、先生と確認しながら行うことがチーム医療なのかなと思います」(吉田さん)。
チーム医療においては、共通認識を強く持つことが大切です。「治療の方向性をチームでしっかり認識することで、手技の流れがよりスムーズとなり、患者さんの負担も減って、次の症例に余裕を持って臨めるようになります。手技終了後に急変して戻ってきたという症例も過去には経験しているため、自分が気になることはその都度確認して、疑問をなくすようにしています。そうした行動が安全性の向上につながっていると思います」(吉田さん)。
このように岩手医科大学附属病院は、充実した設備と協力体制が整ったハートチームが、日々多くの患者さんを受け入れています。石曾根先生は、現在のような体制が取れていることについて「やはり森野先生の存在が大きい。常にビジョンを持って行動されている上に人間味があり、尊敬できる上司に恵まれていると感じますし、この思いはチームのみんなが共有していると思います。それは、若手の医師、研究者が続々と当院の循環器内科に入ってくることからも伝わってきます」と指摘します。
移転してこれからが期待されますが、吉田さんは「施設自体が大きくなったので、今まで場所の制約があってできなかったことが移転後には可能となりました。現在は、施設が大きくなったことの長所を最大限に生かせるような、若手スタッフの教育と人員配置が課題です」と言います。
近い将来、新施設が最適化されると、どのような新たな魅力が生まれるのでしょうか。さらなる発展が注目されます。
1)https://www.pref.iwate.jp/kensei/profile/1000649.html
2)http://www.jmari.med.or.jp/download/wp323_data/03.pdf
岩手医科大学附属病院
〒028-3695 岩手県紫波郡矢巾町医大通2-1-1
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EVO214148MH1(2021年6月作成)